2019.10.25
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監督インタビューが実現!医療職必見映画『人生、ただいま修行中』

注目トピックス

先日試写会プレゼントのご案内をした、映画「人生、ただいま修行中」の公開に先駆け、監督のニコラ・フィリベールさんが来日。
それに伴い、メディカルサポネットでは初の試みとなる、聖路加国際大学で開催された特別授業及び監督インタビュー取材を敢行しました。
日本とは異なり、積極的に実技を経験するフランスの看護実習スタイル。そこで奮闘するフランスの看護学生たちの姿を通して、学び方は違えど成長を遂げていく過程に、日本の看護学生や看護師からも多くの共感を得ているようです。
また、インタビューでは監督が映画制作を通して感じた看護の魅力について語ってくださいました。
「看護師は日常のヒロイン/ヒーローだ」と話す姿は、患者経験と映画監督2つの目線で看護師の理解を深めたゆえの言葉でした。

取材・文/中澤 仁美(ナレッジリング)
撮影/山本 未紗子(株式会社BrightEN photo)
編集・構成/高山 真由子(看護師・保健師・看護ジャーナリスト)

映画『人生、ただいま修行中』の公開に先駆けて ニコラ・フィリベール監督が来日! 聖路加国際大学の特別授業で語った看護への思いとは? 

看護学生の成長を追ったドキュメンタリー映画、『人生、ただいま修行中』。その監督を務めたニコラ・フィリベール氏が2019年11月1日(金)の公開に先駆けて来日し、聖路加国際大学での特別授業に登壇しました。ここで監督が語った看護への思いについて、インタビューの様子と併せてお伝えします。

『人生、ただいま修行中』
11月1日(金)新宿武蔵野館他全国順次公開
監督・撮影・編集:ニコラ・フィリベール
2018年/フランス/フランス語/105分/アメリカンビスタ/5.1ch/カラー/英題:Each and Every Moment/日本語字幕:丸山垂穂/字幕監修:西川瑞希
配給:ロングライド 後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本

文部科学省特別選定(青年、成人向き)

文部科学省選定(少年向き)

東京都推奨映画

厚生労働省社会保障審議会推薦児童福祉文化財

longride.jp/tadaima/
©️Archipel 35, France 3 Cinéma, Longride -2018

映画公式サイト:https://longride.jp/tadaima/

<作品情報>

フランス、パリ郊外の看護学校で学ぶ看護学生40人に密着し、150日の成長を追ったドキュメンタリー映画。学校の授業で手指衛生などの基礎を学ぶ段階から、各医療機関における臨床実習、その後の振り返りまでを丁寧に切り取っている。

 

<監督プロフィール>

ニコラ・フィリベール

現代ドキュメンタリー界の名手。日本でも話題になった『ぼくの好きな先生』などの作品で世界的に知られる映画監督で、人間の成長をテーマにした作品を数多く生み出してきた。本作では、監督・撮影・編集の3役をこなしている。

    

壇上で聴衆に挨拶するニコラ監督(右)。  司会を務めたのは聖路加国際大学看護学部准教授の奥裕美先生(左)。

壇上で聴衆に挨拶するニコラ監督(右)。

司会を務めたのは聖路加国際大学看護学部准教授の奥裕美先生(左)。    

「看護師にオマージュを捧げたい」監督自身の体験が作品の原点に

2019年10月9日(水)、聖路加国際病院のトイスラー記念ホールにて『人生、ただいま修行中』をめぐる特別授業が行われました。この日の聴衆は、聖路加国際大学の看護学生や大学院生、教員など。さらに、聖路加国際病院での勤務を終えた現役の看護師たちも続々と集まりました。

来日中のニコラ・フィリベール監督が笑顔で登場すると、ホールには大きな拍手が響きました。壇上に上がったニコラ監督は、「このような場に招待してもらえて本当にうれしい」と感謝の言葉を伝えた上で、本作が完成したいきさつについて次のように語りました。

ニコラ監督「長年にわたってドキュメンタリー映画を作成してきましたが、今回は看護というテーマが『撮影して!』と私のところにやってきてくれたような感覚です。そもそものきっかけとなったのは、2016年に私が肺塞栓症で倒れ、救急救命室(ER)に運ばれたこと。退院してすっかり元気になったころ、私を助けてくれた医療従事者、特に看護師にオマージュを捧げたいと思うようになったのです」

  
看護学校では、会場となったトイスラー記念ホール。  一般向けの健康講座などにも使用される、洗練された印象のホールだ。

 看護学校では、会場となったトイスラー記念ホール。

一般向けの健康講座などにも使用される、洗練された印象のホールだ。

  

看護学生を教育する側にとっても、学びの多いシーンがたくさん!

特別授業の中盤からは質疑応答タイムとなり、熱心に質問する人が後を絶ちませんでした。ここでは、一部の内容をご紹介します。

 

【質問①】

「数ある医療従事者のなかでも、看護師に焦点を当てたのはなぜでしょうか?」(教員)

 

監督「おそらく全世界に共通のことだと思いますが、看護師は医師よりも患者のそばに寄り添う立場です。きわめて重要な仕事でありながら厳しい環境のなかで働いていることを知り、映画監督としてスポットを当てたいと思うようになりました。“影の存在”になりがちな看護師がどんな思いで働いているかを知ることは、一般の人々にとっても意義のあることだと感じています。どんな人でも、いつかは看護師のお世話になるのですから」

  
勤務を終えた看護師からも質問が寄せられた。

勤務を終えた看護師からも質問が寄せられた。

 

【質問②】

「これから看護学生を教育する立場にある私としては、作品の後半で教員と看護学生が面談を行うシーンは特に示唆が多かったように思います。面談の撮影中、印象的だったことは何でしょうか?」(大学院生)

 

監督「撮影を受け入れてくれたクロワ・サンシモン校は、比較的小規模の学校ということもあり、臨床実習から帰ってくるたびに面談が行われていました。しかも、1回当たり40~50分もの時間をかけて、困難にぶち当たっている学生から丁寧に話を聴き取っていたのです。『本当に自分はちゃんと現場で動けていた?』と学生が不安に感じるのは当然ですから、自分の気持ちを打ち明けて、振り返れるようなステップは不可欠だと感じました」    

  

看護師を目指すモチベーションとは?密着してわかった現代の若者たちの姿

映画に感動したメディカルサポネット編集部は、監督への直接インタビューを実現!作品に込められた思いを、さらに詳しく伺いました。

     

ユーモアたっぷりの話しぶりで、現場には笑顔が絶えなかった。

ユーモアたっぷりの話しぶりで、現場には笑顔が絶えなかった。   

   

――実際に看護学生に密着したことで、どのような印象を持ちましたか?

監督「映画などの作品内において、フランスの若者は“個人主義”“怠惰”“無気力”といった側面を描かれがちです。しかし、現実は必ずしもそうではありません。私が取材した看護学生たちは“他者のために働く”ことを選択し、そのために精いっぱい学んでいました。彼ら/彼女らの多くは陽気で、授業中も笑顔にあふれていたのが心に残っています」

 

――取材を通じて、看護という仕事にはどんな魅力があると感じましたか?

監督「フランスにおける看護師の賃金は低く、労働環境も決して良いとはいえません。看護師になりたいという若者のモチベーションがどこにあるのか、最初は疑問に感じていました。しかし、彼ら/彼女らに密着するなかで、看護師が非常に豊かな職業であることを知りました。人が人をケアするという、普遍的かつ魅力的な仕事だからこそ、多くの若者が看護師を志すのですね。自分のなかの迷いや恐怖感を克服して現場に立つ看護師は、日常のヒーロー/ヒロインといえるでしょう」

 

――これから現場に飛び出す日本の看護学生たちに、応援のメッセージをお願いします!

監督「看護が厳しい仕事であることは間違いありません。しかし、人の役に立つだけでなく、患者さんの人間的な側面に触れることができます。社会的な貢献度が高く、他の何にも代えがたい美しい仕事だと思います。看護師の活躍の幅は非常に広いですから、その多様性を生かしながら、自分の興味に沿ってたくさんの経験を積んでほしいと思います」

   
「看護は何にも代えがたい美しい仕事だ」と力強く語るニコラ監督。

「看護は何にも代えがたい美しい仕事だ」と力強く語るニコラ監督。 

   

臨床実習中にリアリティーショックを受けながらも、前を向いて歩き続ける看護学生たち。その姿には、医療に携わる人はもちろん、そうでない人の心をも打つ力があります。自分の人生に迷ったとき、目標を見失いそうになったときこそ、パワーをもらえる作品といえそうです。

 

映画の詳細はこちらから

 

著名人からも称賛のコメントが続々!<コメント一部抜粋 ※敬称略>

 

●谷川俊太郎(詩人)

見終わった後のこの充実感はなんだろう、良い劇映画がもたらすカタルシスとは違う。ドラマではないのに、底に流れているひとりひとりの隠されたドラマに、静かに感動している自分に気づく。

 

●星野概念(精神科医など)

医療者の中で、患者さんの生活の細部に圧倒的に関わるのが看護師さんです。それだけに、それぞれの全ての瞬間にドラマがあり、医療者然と冷静に構えていられないことも多いように思います。でもそもそも、医療現場にいて「人」としてゆらぐのは自然なことではないでしょうか。ゆらぎながら患者さんを癒していく看護師さん達の、覚醒前夜な姿。なかなかみられない現場の臨場感が体感できる貴重な作品だと思いました。

 

●鎌田 實(医師/作家)

血圧測定、採血、簡単そうで簡単でない技術の壁。精神疾患や末期がん、HIVの患者の前でたじろぐ若者。壁にぶつかり、誰かのために生きようともがき、心の内を語りながら成長する看護師の卵が初々しい。感動のドキュメンタリー映画です。

 

●小林エリカ(作家、マンガ家)

生と死に関わる現場で働くことを目指す生徒たちの姿を追いながら、ひとりひとりの人生そのものが淡々と描き出されてゆくさまは、じりじりと胸に迫ります。

 

●秋山正子(訪問看護師・認定NPO法人マギーズ東京センター長)

かつて看護教員もしたことがあり、とても興味深く観ました。学生達の成長には目を見張るものがあり、応援したくなります。人として育つ経過がワクワク感とともに味わえる時間です。ドキュメンタリーのよさが光る作品。

 

●竹下(浦田)喜久子(一般財団法人日本赤十字社看護師同方会理事長)

「まさに、人生修行中」。自身のコミュニケーションの未熟さや末期患者との出会いに戸惑い、生活を抱えて学習することの困難、希望を見出す喜びなど、実習後、講師との振り返りで己を洞察していく学生たち。人は人間と関わりながら成長する。どの職業も同じであろう。また、人間一度は看護を受ける立場になる。一見の価値大いにあり。

 

●井部俊子(長野保健医療大学教授)

10年程前にパリの郊外にある病院の看護を視察したことがある。分娩室にいたベテラン看護師は、いつから独り立ちしたのかというわれわれの気弱な質問に「卒業した翌日からよ」と言った。「学生の時にそのための準備をしてきたわけだから」とつけ加えた。その姿は力強く自信に満ちていた。今、そのプロセスが明かされる。

 

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