2019.08.29
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この薬局がすごい!
第7回「イベント企画」
まごころ薬局

―選ばれる理由と成功のヒント―

最近では、地域のために薬局主体で健康イベントを企画している店舗が増えています。ただ、「人が集まらない」「何から始めたらいいか分からない」という悩みも聞きます。まごころ薬局(兵庫県尼崎市)は、薬局の近隣にコミュニティスペース「まごころ茶屋」をつくり、地域住民が主体となって毎日のようにイベントを開催しています。実は「まごころ茶屋」も、近隣住民によるDIYでつくられました。地域の人を巻き込み、仲間を増やしていくイベント企画の成功の秘訣をまごころ薬局の代表、福田惇さんに聞きます。

文/竹中孝行(薬局支援協会理事)
取材・撮影・編集・構成/メディカルサポネット編集部

 

目標は「友だちみたいな薬剤師」 イベントで患者らに光を当てる

──まず、立地についてお聞きします。ここは駅から15分ほどかかり、医療機関がほとんどない住宅街です。どうしてここで開業なさったのですか?


福田惇さん(以下、福田):もともとMRをやっていて、26歳の時に製薬会社を辞めたんですよね。漢方を学ぶために漢方薬局で修業しようと思いまして。ただ、収入がかなり下がっちゃうので、バイト先を探しました。薬局を経営している先輩に「働きたい」とお願いしたら、「尼崎に売りに出ている薬局があるから、やってみない?」と誘われたんです。「漢方はやらんのかい!」と言われそうですが(笑)、独立したいという気持ちが強くあったので、やってみることにしました。でも、オーナーさんから「薬剤師経験のない人には売れない」と言われてしまい、いったん先輩の会社がその薬局を引き継いで、僕は管理薬剤師として半年間勤務した後に先輩から買いました。
ところが、僕が引き継いだ直後に、隣接していた病院が駅前に移転したんです。ついていくことも考えましたが、いろんな理由で移転先には薬局が出せなくて。結局薬局は閉じました。「生きていくためになんとかしなきゃいけない!」と、院内処方の医療機関リストを作成して、院外処方に変更してもらえないかお願いして回りました。こんな私の提案に「院外処方にしましょう」と言ってくれた医師のいる病院の横で出したのが、この「まごころ薬局」です。当時はとにかく、先生に迷惑を掛けないことと、院外処方で費用が上がってしまう患者さんから不満が出ないように、間違えず、待たせずに出すことに注力しました。まごころ薬局を始めてからも、近隣の院内処方の病院を訪問し、少し離れたところにある院内処方の病院も、一部院外処方に切り替えてくれるようになりました。処方箋も順調に増えてきてやっと落ち着いたと思ったところで、今度はその病院が移転してしまいました。


「独立後、立て続けに近くの病院が移転してしまいました」と振り返る福田さん


──え!開業後に病院が2軒も移転ですか。そんなことってあるんですね。


福田:はい。しかも移転先の横には既にドラッグストアがあったんですよ…。病院の移転後も、有り難いことに3分の1の方は継続して僕の薬局に来てくれました。でも、「移転後も来ます」と言ってくれていた患者さんが、隣のドラッグストアに流れていくことも多かったです。やっぱり患者さんが薬局に求めることは「病院から近いことなのか」と、もやもやした気持ちがたまっていきました。


──そんな状況からどうやってコミュニティーをつくり、イベントを成功させていくんですか?


福田:しばらく自分の仕事の意味が分からなくなって悩みました。そんな時期に「第1回みんなで選ぶ薬局アワード」を聞きに行き、川口市で地域コミュニティーデザインに携わっている厚川薬局さんの話に心を動かされました。「これなら僕でも新しい価値をつくれるんじゃないか? 自分の薬局を選んでもらう意味ができるんじゃないか?」と思い、薬局×地域コミュニティーづくりをしようと決意しました。厚川先生がされているイベントは、主催が薬局でないことも多く、地域の方が企画して実施されています。僕の薬局の患者さんでも、いつも不調を訴えていたのに、自分の役割や居場所を持てたことで元気になったことがありました。なので、僕もできるだけ患者さんや、地域の人が主体的に活動できる場所を作ってみようと考えました。


「まごころ薬局」の隣に今年オープンしたコミュニティースペース「まごころ茶屋」


──コミュニティーをつくろうと決意してから、どんなことをなさるんですか?


福田:「もうやるしかない」と思って、地域に出たら衝撃を受けました。自治会と地域包括支援センターが共催している認知症サポーター養成講座に参加してみたら、薬局の患者さん以外、まごころ薬局を知らなかったんです。3年間薬局をやっていて、同じ地区内にあるのに認知すらされていなかったことに絶望しました。「薬局の新しい価値を作る」ことよりも、「まずは知ってもらわなきゃ」と思い、地域の集まりに顔を出して、まごころ薬局を認知してもらい、その中からファンになってくれる人を増やそうと痛感しました。「とにかく何でもいいからイベントを開きたい、広告を出したり何かしらの発信をしたい」と焦るものの、恥ずかしながらイベントをしたこともSNSでの発信もほとんどやったしたことがなかったので、何をしたらいいか全く分かりませんでした(笑)。
それでも、いろんな人に「薬局でコミュニティーデザインをしたい」と言っていたら、尼崎でコミュニティーデザインの活動をしている人を紹介してもらえました。私の思いを伝えると、一緒にやってくれることになりました。さらに、隣のテナントが偶然空いたんです。そこをすぐに借りて。「薬局でイベントやります!」と発信すると、コミュニティーづくりやボランティアをしている人、行政の人らが興味を持ってくれました。最初にしたイベントは「オープン会議」です。借りたての何もない事務所に人を呼んで、壁に模造紙を貼って「これからここをどんな場所にしましょうか」と話し合ったのが始めの大きな一歩です。やっぱり一人でやるのではなく、その分野で影響力のある人と組んで進められたのはよかったと思います。オープン会議をするときは集客のために、会う人会う人にチラシを渡していましたね。


──オープン会議の中で、コミュニティースペースをDIYする話も決まっていったんですか?


福田:そうですね。オープン会議には最初20人くらい来てくれて、回を重ねるごとに増えていきました。会議の中で、内装のDIYをすることが決まりました。やっぱり一からみんなで作るのは面白かったですね。自分が関わった場所は愛着がわいて、また来たくなりますし。この壁をちょっと塗っただけでも「この壁塗ったの、私」って。壁を塗るワークショップを3回して、のべ100人ほどの人がコミュニティースペースのオープン前に関わってくれました。黒い床は、木の表面をバーナーで焦がしてたわしで擦って、乾かしてからオイルを塗って作りました。出来上がった板は、DIYが得意なおじいちゃんや近所の主婦と一緒に張りました。DIYは今年の1月から始めて、3月初旬に完成。薬局はスタッフに任せて、工務店みたいなことをやっていましたね(笑)。本当にスタッフには頭が上がりません。


地域の銭湯とのコラボ企画のチラシを手にする福田さん


──完成後には、近所の高齢者によるファッションショーなどいろんなイベントをしていったようですが、それはどうやって企画していたんですか?


福田:オープン会議で出ていたアイデアをどうすれば実現できるか常に考えていましたし、今もずっと考えています。ファッションショーは高齢者施設向けのファッションショーを企画している会社の社長さんとお会いする機会があったので、「すぐにやってください」とお願いしました。知り合った人や患者さんの得意なことを見つけたら「うちでやってくださいよ」とよく誘っています。(取材時に)開催中のこの「空の写真展」は反響が大きいですよ。まさに思い描いていたことが実現した企画です。この写真を撮ったのは、薬局の裏に住んでいる91歳のおじいちゃん。毎日、空の写真を撮ってブログにアップしていたんですよ。でもある日、「辞めようと思う」と言ったんです。理由を聞いたら、「誰も見ていないと思うから」って。「じゃあ、近所の人に見てもらいましょう」と企画しました。チラシを作って配り、プレスリリースを出して新聞社に取材してもらって。おじいちゃんうれしくなっちゃって、その記事をカラーコピーして近所にばらまいていました(笑)。びっくりするくらい喜んでくれました。ご家族の方にも。うちのスタッフも最初はコミュニティー活動については「ちょっと何言ってるかわかんない」って感じでしたけど、この写真展に共感してくれて、「患者さんに薬を渡すこと+α をやろう」という意識に変わってきたみたいです。


薬局近くに住む91歳のおじいさんが毎日撮っている写真を紹介する「空の展覧会」(現在は終了)


──それはとてもうれしいですね。イベントでこだわっていることはありますか?


福田:意識しているのは、なるべく地域の人や患者さんが主体的に活動できる場にすることです。また、僕が主催するイベントはいろんな人を均一に喜ばせようとは考えていないです。僕は僕の好きな患者さんをめちゃくちゃ喜ばせる。ピンポイントで、「この人のためにやってあげたい!」という気持ちで企画しています。次は、山登りが大好きだったけれど重い病気でもう登れない患者さんのために「山展」を開きます。このスペースに人工芝を敷いて、知り合いの庭師さんにお願いして木や枝で森っぽく装飾してもらって、テントも張って、一緒におにぎりを食べるという内容です。


「まごころ茶屋」のホワイトボードにはイベントがたくさん書き込まれている


──聞くだけでわくわくしました。目指している薬局のあり方は、どのようなものですか?


福田:僕としては、いい意味で、薬剤師らしさを消したいという思いがあります。最近、「コミュニティーナース」という言葉があるじゃないですか。看護師としての立場ではないかたちで住民に関わりながら様子を見てあげている。薬剤師も、同じような感じで「話しやすい兄ちゃんだけど、あなた何やってるの?」みたいになったときに、「実は、薬剤師なんです」という状態から相談を受けられるようになりたいですね。もちろん、相談されたときに答えられないといけないので、しっかり勉強してないといけませんが、親しみやすい方がいいなと感じてます。地域活動の一つで、フレイル予防の「100歳体操」に参加していると、「あんた何やってるの?」って言われて、「薬剤師なんです」と言うと、すごく薬の相談されるんですよ。でも僕が講師の薬剤師として行ってもそんなに話をしてくれないと思うんですよ。やはり友だちみたいな薬剤師を目指したいですね。


キャプション

「なんでも相談できる友だちみたいな薬剤師になりたいですね」と話す福田さん



まごころ薬局(武庫之荘店)

住所:兵庫県尼崎市武庫之荘6-24-11セビーヌ武庫之荘1番館104

URL:http://www.co-dial.jp/
TEL:
06-6432-7666

2013年に開業。まごころ薬局は現在、兵庫県内で2店舗を展開している。武庫之荘店の隣には、2019年4月にコミュニティースペース「まごころ茶屋」がオープン。内装を地域住民とDIYでつくり、毎日のようにさまざまなイベントが開かれている。

                 メディカルサポネット編集部(取材日/2019年7月3日)
 
 
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