2019.07.04
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アドバンス・ケア・プランニング(ACP)とは?【有効性を示すエビデンスが示されつつある。高齢化に伴いケアの中心的存在に】

メディカルサポネット 編集部からのコメント

患者本人の意思決定能力が低下する場合に備えて、終末期の医療や介護について話し合うことや、本人に代わって意思決定をする人を決めておくアドバンス・ケア・プランニング(advance care planning:ACP)。超高齢社会を迎えるにあたり、その考え方や実践について、押さえておきたいものです。

 

超高齢社会を迎え,「死は医療の敗北」であった時代から,「いかに看取るか」,また「quality of death(QOD)」の重要性が強調される時代になってきました。そこで,アドバンス・ケア・プランニング(advance care planning:ACP)の考え方と実践について国立長寿医療研究センター・三浦久幸先生にご解説をお願いします。

【質問者】

葛谷雅文 名古屋大学大学院医学系研究科 地域在宅医療学・老年科学教授

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【回答】

 
ACPの定義は様々ありますが,共通しているのは「今後の医療や療養場所の希望について患者・家族とあらかじめ話し合って患者の思いを引き出し,その話し合いの経緯をそのまま関係者で共有するプロセス」という点です。つまり,ACPとは意思決定能力低下に備えた対応プロセス全体を指します。もともとは1995年ぐらいから米国を中心に広がった考え方で,事前指示書など文書でのやりとりを基本とした活動では良いエビデンスが得られなかったことが背景にあります。現在では欧米,オーストラ リアなど医療先進国を中心に活動が広まっています。

 

実践上の医療倫理判断においてQOLやQODを考えるにあたって重要な要素は,本人の価値観や治療選好であり,これに基づいた治療方針,緩和ケアの方針とすべきなのですが,一方で病態を考えた場合,本人の意向が最善の利益と矛盾する場合があります。リビングウィルや事前指示書ではこのような課題を克服できませんでした。このため,患者本人が都度,医療者から必要な情報を得て,話し合いを重ね,気持ちを固めていく,という時間をかけた医療者との対話の中での決定が望まれ,ACPが体系化されてきました。

  

ACPは一般的に5つのステップで構成されます。すなわち,①話題の導入と情報提供,②話し合いの促進,③事前指示書の記載,あるいは話し合った内容の記録,④事前指示書や記載内容の振り返りと書き換え,⑤本人の希望を実際の現場に適応する,の5つのステップです。ステップ①と②は患者と医療者の対話の促進〔共有意思決定(shared decision making)〕に相当しますが,ステップ③~⑤は,話し合った内容の記録と情報共有を適宜更新し,医療現場に反映するという,ACPの活動を支えるプログラムや組織が必要であることを明示しています。

 

ACPの有効性について,海外では2010年頃からRCT研究等で高いレベルのエビデンスが出ています。一方で,事前指示書やリビングウィル単独の有効性についてはエビデンスが乏しい状況です。高齢者においては疾患の進行とともに意思決定能力が低下する場合が多いため,今後予想される事態について早くから本人との対話を始めることが重要で,ACPはその中心的活動に位置づけられると考えます。

  

【回答者】

三浦久幸 国立長寿医療研究センター在宅連携医療部部長

 

執筆:

葛谷雅文 名古屋大学大学院医学系研究科 地域在宅医療学・老年科学教授

三浦久幸 国立長寿医療研究センター在宅連携医療部部長

    

 出典:Web医事新報

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