2019.08.29
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障害があっても幸せ 自分らしい生き方に寄り添う
(張本浩平さん/理学療法士、株式会社gene代表)

在宅セミナー開催レポート~訪問リハの将来性とリアルな現場~

セラピスト向けセミナー「これでわかる!在宅まるわかり無料セミナー」(マイナビ主催)が2019年7月28日に、東京都新宿区のJR新宿ミライナタワー25Fで開催されました。理学療法士であり、株式会社gene代表の張本浩平さんが「訪問リハの将来性とリアルな現場」をテーマに、市場動向や仕事のやりがい、身につくスキルなどを語りました。来場者満足度97%という大好評の講演をリポートします。

「在宅セミナー~訪問リハの将来性とリアルな現場~」 来場者満足度97%の講演をリポート! 講師/張本浩平さん(理学療法士、株式会社gene代表) 

▼講師プロフィール

張本浩平(はりもと・こうへい)

講師/張本浩平さん(理学療法士、株式会社gene代表)
 
理学療法士、株式会社gene代表。
 
訪問リハビリテーション業務に従事し、2007年に株式会社geneを設立。
コメディカル向けセミナーや、介護保険事業、出版事業などを行っている。
セミナーは全国で毎年360回開催し、20,000人の専門職が受講している。
介護保険事業では訪問看護ステーションを5拠点、通所介護を2拠点の運営、
出版事業では雑誌「訪問リハビリテーション」やMOOKなどを発行している。
 

 

障害があっても幸せ 自分らしい生き方に寄り添う

張本浩平さん(以下、張本):今日は、PT(理学療法士)、OT(作業療法士)、ST(言語聴覚士)の割合ってどれくらいですか? 手を挙げてもらっていいですか? ありがとうございます。PTが一番多いですね。

私の会社は株式会社geneとグループ企業が2社ございまして、3社全体でセラピストと看護師が150人くらい在籍しています。私は、2000(平成12)年の3月26日から訪問看護ステーションをやっているんですよ。

その時期は、介護保険が始まる直前です。当時、日本で訪問リハをやっている人は、おそらく100人もいなかったでしょうね。

うちの会社は出版もしていまして、「訪問リハビリテーション」っていう雑誌を出しているんです。それは、訪問リハの実用書がないからなんです。実は、訪問リハに関する制度は全て医師か看護師の制度、仕組みにくっついてできた結果、めちゃくちゃ複雑怪奇になりました。なんとかしたいと思いまして、8年ほど前に雑誌を刊行したんです。この前、「いくらくらいもうかったんだろう」と思ってね、計算したんですよ。すると4000万円だったんですね。赤字が。

 

来場者:(笑)

 

張本:もうびっくりして。社内ざわついたもん。「うちの会社のどこにそんなお金があったんだ」って。でも、この雑誌の出版は私の決着なんですよ。お金の問題じゃないんですね。昔のやらかしたことに対して、「こういう本があったら、あんなことしなくて済んだかも」という気持ちに応えるために出版をしています。

うちの本で「リハビリテーションライフ」というものがあるんですが、ぜひ手に取ってほしいです。コンセプトは、かっこいい住宅改修。正しい住宅改修の本はいっぱいあるじゃないですか。でも、かっこいい住宅改修の本はないんですよ。手すり1個にしても色合いで部屋の雰囲気変わるじゃん。私たちは機能だけで生きているんじゃなくて、楽しみや生活の彩りがあって生きているわけでさ。

その中に、車椅子でイノシシさばいているお父さんの写真があるんですよ。すごくいい写真でね。人間が生活するってどういうことか、よくわかると思います。「小児リハビリテーション」という雑誌も出しています。

 

いつも講演で投げ掛ける言葉があるんですよ。「人間は障害があるから不幸なんですか?」って。みなさんも、認知症があっても本人もご家族も笑って生活している人を見たことがあるんじゃないですか? 麻痺があっても、ご家族に困ったことがあるか聞くと「いや、お父さん自分のことは自分で全部できるし」とかね。本人に聞いても、「困っていると言えば全部困っているけれど、困っていないといえば何も困っていない」とかね。

在宅で関わるときには、自分の中にリハビリテーション観をしっかり持っていないと。「この手が動かないから、俺は何もかもうまくいかないんだ」っていう人と機能訓練を何年やっても幸せになれませんよ。障害のある体を抱えながらでも私たちは幸せになることができるっていう視点が、私は必要だと思うんですね。

キャリア設計は人口動態から考える

 「2040年から先どう生きていくか。キャリアデザインは人口動態から考えます」と話す張本さん

「2040年から先どう生きていくか。キャリアデザインは人口動態から考えます」と話す張本さん 

 

張本:今の一番の問題は「在宅医療の現在と今後の将来性」ですね。団塊世代の人口モデルの変革期は2025年でいったん落ち着きます。だから今はいろいろ変わる時期です。2040年までは、PTOTSTはどこのフィールドでも食いっぱぐれることはないですわ。2040年から先どう生きるかというのは、訪問リハだけじゃなくて、病院も在宅も含めた全体の問題なんですよ。だから私は、若い人のキャリアデザインの話をするときに、2040年以降の人口動態を考えます。人口動態から、多くなる疾患が分かるんですよ。「そのデータから社会の形はどうなるのか考えてください」ってアドバイスをします。訪問看護ステーションと訪問リハは基本増えていきます。

 

要介護者数はどんどん増えていきますよ。重症の人が増えるのは間違いないんです。私は、理学療法や作業療法、言語聴覚療法っていう方法論ではなくて、リハビリテーションという考え方が必要だと思っています。訪問看護ステーションは、厚生労働省の試算だと2025年には12000カ所まで必要だと言われています。

 

これから「訪問で働いてもいいかな」って思った人に必ず勉強してもらいたいことが、住居者に対する内科系のアプローチなんですよ。これから85歳以上の人口が急増する社会になります。85歳以上が多い人口モデルでは、女性、認知症、慢性疾患が増えます。2010年の時点で85歳以上の人口が383万人。2025年には倍の736万人。2040年にはその1.5倍の1037万人になると言われている。我々は在宅に関わる専門家として、重度の人に対するアプローチはちゃんと持っておかないといけない。要するに、「内科系の知識は大丈夫ですか」「SPO2の呼吸不全に対する慢性呼吸不全と急性呼吸不全の病態の違いは理解していますか」ってことです。

 

 

将来像に向けての医療・介護機能再編の方向性イメージ(gene提供)

医療・介護機能再編の方向性イメージ(gene提供)

  

張本この四角形と台形の問題をクリアするにはどうしたらいいか。上の方のめちゃくちゃお金がかかるところを下に付け替えて、コストをなるべく広く浅く持っていこうというのが厚生労働省の思惑でしょう。地方都市では病院がどんどん潰れていますよ。統廃合の勢いすごいですよ。

東京では別の問題が出てくるでしょうね。例えば、港区の整形外科でリハ室があるクリニックなんてあります? 家賃が高くてペイできないですよ。そうなると、高所得の人たちが自費で頼むわけです。今、腕自慢のPTがどんどん起業しているでしょう。それが成り立つ可能性が高いのは東京という特異性があるからだという理解が必要です。

 

「85歳以上が多い人口モデルでは、女性・認知症・慢性疾患が増える」と指摘する張本さん

「85歳以上が多い人口モデルでは、女性・認知症・慢性疾患が増える」と指摘する張本さん

 

自分が幸せでないと人を幸せにできない

張本:私は訪問リハビリテーションという仕事に就けて世界で一番幸せですし、もうこの仕事に就いてない人たちが気の毒で仕方ない(笑)。よく言われるんです、「在宅って難しいですよね」って。でも、逆に聞きたいです。「病棟リハは簡単なんですか?」って。全部難しいです。それぞれフィールドが違うだけなんですよ。急性期は100メートル走、回復期は400メートル走、そして、在宅や訪問はマラソンなんです

時々、若い人で400メートル走の走り方でマラソンを走ろうとする人がいるんです。「お前は今、訪問っていうちょっと長距離のところにいるんだから、もう少し肩の力抜け」って言うんですけどね。

 

訪問リハは、時間のコントロールがしやすく、ワークライフバランスが取りやすい仕事だと思います。これははっきり言っておくよ。自分を大事にしなければ絶対に人のことなんか大事にできないよ、幸せにできないよ。自分の人生が充実してないのに、人の人生を充実させようなんておこがましい話はやめて。

 

まず自分の生活が安定して余暇がしっかりあって、土曜日は友達と遊んで日曜日は勉強して。そういったサイクルを繰り返してやっていかないと、目の前の傷ついている人、しんどい思いをしている人のギリギリの言葉を受け止めることはできないよ。みんなギリギリの言葉いっぱいぶつけられるでしょ? 臨床やっているときに。「お前に俺の気持ちがわかるのか」って。(来場者に対して)言われた?

 

来場者:違う言葉で言われました。

 

張本:私は3回言われました。1回目は「よくわかります!大変でしょう」って答えた。嘘でしょう。わかるはずないんですよ。20代で、自分の体で動けて自分でお金稼いでいて。「もう俺は、孫におもちゃも買ってやることもできない」って絶望している人の気持ちなんて。2回目からは、「わかりません。申し訳ないんですが、せめて言葉で伝えてください」って言っています。難しいですよね。「元通りにならないのに頑張って何になるの? 頑張ったら治るの?」って言われたら、黙るしかないでしょう。まさか「おっしゃる通り!」なんて言えないじゃん。 

訪問リハは素晴らしい仕事だと思うけれど1つだけ、ちょっとしんどいことがある。訪問リハは、お別れしないといけないの。毎週1時間や2時間、ずっと関わってきた利用者さんと。「あっ、張本さん。ミオちゃんがたけのこ取って来たから持って行きなさい」って言われたら、それが裏に住んでいる姪っ子さんのミオちゃんのことだってわかるんですね。

お昼も用意される。お昼用意されて断る鋼のメンタルある人なんている? 断れへんやん!  そうやってずっと関わって、死んじゃうのよ。死んじゃうの。喪失が年に何回も何回も起こる仕事。それだけは訪問リハの中で結構しんどいですね。

 

訪問の面白さと難しさを伝えるために、トイプードルのフクちゃんの話をしますね。フクちゃんのいるお家は、お父さんがパーキンソン病で寝たきり、気管切開しています。私が行くと、フクちゃんはそこらへんをダーッと駆けまわって、なぜかお父さんの上に立つのね。興奮してこっち見ながらワンワン吠えて、最終的にお父さんの気管切開の部分を舐め始めるのよ。みんなだったらどうする? フクちゃんは雑菌の塊だよ。お母さんに「ちょっと言いにくいんだけど、フクちゃんが舐めるのは汚いと思うのよね」って言うと、「フクちゃんは汚くない」って返ってくる。フクちゃんは寝るとき、お父さんの頬におしりを当てるのね。で、お父さんはそれでうれしそうな顔するのよ。この年になってよくわかるけど、ぬくもりって大事でしょう? これから先どれだけAIが発達しても、人が温かみを感じることの代わりはおそらくないと思う。フクちゃんがしているのはそういうこと。その人が自分の人生を生きていくことを考えたときに、正解のないことを僕たちは決めていかないといけない。それは難しくもあり、面白くもあり、しんどさもあるところですね。

 

リハの哲学は「困難から立ち上がる美しさ」

張本:今、理学療法士はリハビリテーションを再発見しないといけないと思っています。作業療法士は大丈夫。この前、作業療法士協会が出した作業療法の新しい定義は、「人々の健康と幸福を促進するためのもの」です。すごいですね。健康と幸福という人間が生きていく意味を目的の中に含めているんですよ。対して理学療法の定義は、「運動を行わせ、基本的な動作能力の回復うんぬん」なんです。

理学療法の定義の中に、人間の幸福はないんですよ。そう考えると、理学療法はリハビリテーションの意味を再理解しなければ、リハビリテーションの本質的なものにたどり着きにくいと思います。

 

私の座右の銘は、「個人因子・環境因子を十分に考慮して心身機能・活動・参加を分析した後に数値化した具体的な目標に期限を設定する」です。プログラムは、個人因子の「お父さんのネクタイを結びたい」「庭の草を抜きたい」「右手でごはんを食べられるようになりたい」などによって広がりを持てる。十分な広がりを与えるには、私たちは十分に個人因子・環境因子を把握しなければいけません。

訪問リハでみなさんにぜひやってもらいたいのが、利用者さんのアルバムを見ることです。重症のいろんな方と出会うと思うんですけれど、その人のドラマに触れることができたら、その人のいろんなことを尊重できると思うんです。うれしいこと、悲しいこと、楽しいこと、いやなこと、いろんなことを経験して、今ここで寝ていると感じたら、その人のリハビリテーションを考えやすくなると思うんです。

 

私は、世界は科学と解釈、事実と解釈で成り立っていると思います。解釈はその人だけのストーリーですから、そのストーリーを否定してもどこにも行けないんですよね。コップの水が「半分しかない」のか「半分もある」のかは、その人が思うことですから。

人間はジグソーパズルだと思います。人がダメなんじゃなくって、そこのピースに人があてはまらないだけ。「あいつはダメだから辞めてほしい」とかみんな言うでしょう。でもそれは違うからね。人がガッて集まったら、ピースがちゃんとはまってパフォーマンスが上がるからね。

 

うちにタカハシってスタッフがいるんですけど、ひどくてね。私に平気で「仕事やりたくないです」とか、「早く帰ってゲームしたいです」とか言ってくる。でも、全社に14チームあるんですが、チームごとの離職率や経常利益率、有給取得率、ストレスチェックを出すと、タカハシのチームがダントツ1位なんです。チームのメンバーがいいのかなと思ってメンバーを異動させても、タカハシのチームがやっぱり成績が上がる。そこがタカハシのすごいところです。タカハシはスタッフと一緒に真剣に喜ぶし、真剣に苦しむ。先月、あるスタッフが「やっと子どもできました」って報告したら、タカハシが泣き始めるの。本気で。「よかったな、お前ほんと子ども欲しがっていたもんな」って。この前は、利用者さんが転倒してスタッフが落ち込んでいると、一緒に悲しんでいるんですよ。そうするとスタッフたちは「タカハシさん、一緒に頑張ろうよ」ってなる。

 

これから管理職になる人もいるかもしれないですね。みんな「自分の能力がないからうまくいかない」とか「自分の能力がもっと上がって、もっと強くなれば、みんなもうまくいくんだ」って考えるけれど、そうじゃないからね。いい? 強くならなくたっていいからね。強くなる必要はないんです。賢くなる必要があると思います

 

私は、少しでも訪問リハビリテーションが日本に広まったら幸せです。

リハビリテーションは、「人間はものすごく理不尽に挫折もするし失敗もする、でも立ち上がることができて、その姿こそ美しいんだ、価値があるんだ」って言っていると思ってます。私はこの美しいリハビリテーションという哲学をみなさんと一緒に形にしたいと心から思っております。

 

(取材日:2019年7月28日)

メディカルサポネット編集部 

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