2021.02.17
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交通弱者を救う新たなシェアリングビジネス「ドコケア」

【医療テックPlus】第14回/ケアプロ株式会社「ドコケア」

【 医療テックPlus+】第6回 「腰用パワードウェア『ATOUN MODEL Y』」 株式会社ATOUN

 

 

編集部より

医療・福祉分野の問題解決に挑む事業を展開してきたケアプロ株式会社が、2020年6月に新規サービスをローンチしました。外出に介助が必要な人と、その介助ができる人をマッチングするサービス「ドコケア」です。医療・介護従事者などが副業として外出介助を行うことができる、この新たな保険外サービスの詳細を、同社の皆様に伺いました。

 

取材・文/中澤 仁美(ナレッジリング)

撮影/穴沢 拓也(株式会社BrightEN photo)

編集/メディカルサポネット編集部

 

 

【プロフィール】※敬称略

川添高志:ケアプロ株式会社代表取締役社長。自身も看護師であり、医療現場の経験を積んだ上で2007年に起業した。

 

金和樹:ドコケア事業全体のプロジェクトマネジメントを担当。理学療法士として病院や訪問看護ステーションで経験を重ねたほか、英国シェフィールド大学大学院への留学経験も。

 

古川美帆:「ドコケア」のカスタマーサクセス※や、ウェブアプリ仕様の企画などを担当。大学病院の整形外科病棟で看護師として勤務し、大学院でスポーツマネジメントを学んだ経歴を持つ。

※カスタマーサクセス:自社の商品やサービスに対して顧客が抱く不満を解決し、顧客満足度を高めるための取り組み。

 

新屋麻美:マーケティングや広報活動を担当。医療的ケア児であった次女の育児経験から介護の仕事に興味を持ち、以前はデイサービス施設で勤務していた。

 

中込千夏:教育コンテンツ「ドコケア学」の立ち上げや運営などを担当。京都大学医学部で看護学を専攻した後、ケアプロ株式会社へ新卒で入社した。

  

 

シェアリングビジネスで外出のスポット需要を満たす

     

    ――まずは「ドコケア」事業を立ち上げた経緯をお聞かせください。

     

    金:高齢で要介護状態だったり、病気や障害を抱えて外出時にサポートを必要としている「交通弱者」は、全国で2000万人に上ると考えられます。自費サービスとして外出支援を提供する訪問介護・看護事業所もありますが、保険適用にならないため料金が高額で、利用者の経済的負担が重くなりがちです。より手ごろな料金で外出介助を提供し、病気や障害があっても自由に外出できる世の中を作りたい――。そうしたビジョンの下で生み出されたのが「ドコケア」なのです。

     

    利用者と介助者をつなぐプラットフォームのような存在で、事前に情報登録した利用者(あるいは家族や友人など)が、同じく登録済みの介助者から条件に合う人を選択して外出介助を依頼します。1時間から気軽に利用可能で、公的サービスのような制限もなく、通勤通学や買い物、冠婚葬祭、旅行など多様な目的で活用できることが特徴です。

     

    金さんのPTとしての臨床経験がドコケア開発プロジェクトに発揮された 

       

    川添:当社では訪問看護ステーションや居宅介護支援事業所を展開していることもあり、こうしたサービスのニーズが非常に高いことは常々実感していました。利用者自身が外出を望んでいることはもちろんですが、働き手である看護師が「ボランティアでいいから連れていってあげたい」と訴えることも少なくありません。また、業界の実態として、ケアマネジャーが院内介助などをボランティアで実施せざるを得ない場面も存在します。

       

    しかし、そうしたかたちの外出支援では、万が一事故などが起こったときに責任を取り切れないおそれがありますし、個人の頑張りに依存しすぎるのは健全なサービスとはいえないでしょう。だからといって、低額すぎる自費サービスでは事業として継続しづらく、公的サービスの提供にも影響が出かねません。こうした課題を整理した結果、外出のスポット需要を上手に満たせるシェアリングビジネスとの相性が良いと判断しました。

     

     

    ――サービスをデザインする上で、どんなことに注意が必要でしたか。

     

    川添:構想段階で厚生労働省や経済産業省、各分野の専門家のもとへ伺い、法的リスクの有無などはしっかりと確認しました。そうした経緯もあり、「ドコケア」は令和元年度健康寿命延伸産業創出推進事業(経済産業省)に採択されています。事業の立ち上げにあたっては、社会的課題解決に関心の高い有識者にも参画していただきました。その一人が、NPO法人ETIC.の代表理事である宮城治男氏です。起業家型リーダーの育成に取り組んできた方で、東京オリンピック・パラリンピックにおける課題発見・解決にも取り組んでいます。世界中から多様性のある人々が集まる中、交通弱者の問題へどう挑めばいいのかという視点で、方向性や戦略の相談をしました。

     

    また、当社が全国の看護職などを対象に行った調査では、外出支援を提供するにあたって、事故のリスクに対する不安が多く聞かれました。そこで、東京海上日動火災保険株式会社に協力を仰ぎ、シェアリングビジネスに特化した保険を設計していただいたのです。対物・対人・医療事故をカバーできる医療・介護職向けの保険をアレンジし、1日単位で使用可能に。この保険に加入(無料)すれば、サービス実施日から適用されるよう当社のスタッフで手続きを行うため、介助者の事務的負担も最小限に抑えられているといえます。

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