2019.12.16
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バリアを払拭する次世代型電動車いす
WHILL(ウィル)の魅力に迫る

注目トピックス

これまでの車いすのイメージをがらりと変える電動車いすWHILLは、誰もが乗りたくなり、どこへでも行きたくなるようなパーソナルモビリティーです。「すべての人の移動を楽しくスマートにする」をミッションに掲げるWHILL株式会社の営業部部長の増本大助さん(営業部部長)と同部の石原朝子さん(営業部)に、WHILLという製品が持つ魅力と実現したい未来について伺いました。
 
取材・文/中澤 仁美(ナレッジリング)
撮影/角田 大樹(株式会社BrightEN photo)
編集・構成/メディカルサポネット編集部

デザインの力で「車いす」のイメージを変える

石原朝子さん(以下、石原):当社の創業者はもともと自動車や電機機器メーカーで開発に携わっていたのですが、車いすユーザーである知人の「心理的な壁が邪魔をして、100m先のコンビニにも行きづらいことがある」という言葉がきっかけとなり、この事業を始めることにしたそうです。たとえ行動的で社交的な人でも、車いすに乗ることで「障害者」であることが際立ち、周囲から弱者として扱われてしまう……。そうした心理的なハードルが車いすユーザーの外出を阻んでいることに気づき、なんとかしたいという思いから生まれたのがWHILLシリーズです。 

  

「WHILLは車いすユーザーの心理的なハードルを解決するために生まれた」と説明するWHILL株式会社営業部の石原朝子さん

  

増本大助さん(以下、増本):2014年にWHILL Model Aを、2017年に現在の主力製品であるWHILL Model C(普及価格帯モデル)を発売しました。そもそも車いすは、ここ数十年の間、基本的な形状が変わっていないそうです。重量があり、見た目にもごつい印象を与える上、病気や障害のある人だけが使う「できるだけ乗りたくないもの」というイメージが少なからずまとわりついていたのではないでしょうか。それを払拭するためには、大幅なデザインの改良が欠かせませんでした。誰もが「かっこいい!」と感じられるような斬新なプロダクトにすることで、車いすというもののイメージを根底から覆したかったんです。

 

「斬新なデザインで、車いすそのもののイメージを変えたい」と話す同社営業部の増本大助部長

 

石原:もちろん、従来の車いすに助けられてきた人がたくさんいるのも事実です。しかし、現在の世の流れとして、「障害があってもより開放的に生きていきたい!」というニーズが高まっているのではないでしょうか。障害に対する考え方が変わりつつある今、WHILLは多くの人の心にフィットする乗り物だと思っています。

 

増本:実際、ユーザーの声を聞くと、「外国人にcool!と声を掛けられた」「かっこいいものに乗っていてうらやましいでしょう、と誇らしい気持ちになる」「いい意味で注目され、『どこで売っているの?』とよく聞かれる」といった話がたくさん出てきます。こうした周囲の反応の変化が車いすユーザーの心理面にも好影響をもたらし、楽しい気持ちで外出できるようになるのだと実感しています。

  

最新テクノロジーが「移動の自立」を現実のものに

増本:デザイン面だけでなく、機能面でもたくさんのこだわりがあります。手元のスティックを傾けた方向へ動くという直感的な操作ができ、4段階のスピード調節も可能です。最高速度は6km/時で、体感速度はかなりのものです。そして、初めて乗った方の多くは、動きのスムーズさ、動作の静かさに驚かれます。

 

スタイリッシュなWHILL Model C。アームカバーは8色展開。

洋服を選ぶように自分好みにアレンジできるファッション性も備えている

  

石原:従来の電動車いすでは難しかった「その場回転」ができるのも大きなポイントです。オムニホイールという、横にも回転する特殊な前輪を開発したことにより、エレベーターなど狭い場所でも方向転換できるようになりました。また、大きな前輪と高出力のモーターにより優れた走破性を実現し、最大5cmの段差を乗り越えることができます。

 

増本:車いすユーザーの行動範囲を大幅に拡大してくれるプロダクトだと思います。より自由に動けるようになった結果、障害を負ってから見失いかけていた自身のパーソナリティーを取り戻せた……というユーザーの声を聞いたときは、本当に感動しました。

 

石原:WHILLには介助ハンドルがついておらず、自力で移動することを前提にした乗り物です。どこかに行きたいと思っても、誰かの手を借りる心苦しさから我慢してしまう方は少なくありません。しかし、移動が自立すれば「いい天気だから散歩しよう」「家族で旅行に行こう」といった前向きな気持ちが復活し、いきいきとした毎日が送れるのではないかと思います。

増本:なお、購入した場合のみの機能となりますが、スマートフォンの専用アプリを使っての遠隔操作も可能です。例えば、両下肢麻痺のある方でも、遠隔操作によりベッドサイドまでWHILLを持ってきて自身で移乗できれば、それまでとはまるで違った生活が可能になるはずです。

    

直感的デザインで操作が簡単。WHILL Model Cのメーカー希望小売価格は45万円。

介護保険を利用してレンタルする場合は、月額約2500円(自己負担1割のケース)。

  

移動に困る人がいない「フラットな世界」を目指して

石原:現在、当社のスタッフが病院や訪問看護ステーションなどを訪れ、積極的にWHILLの使用法に関する講習会を行っています(首都圏と関西地方を中心に対応)。こうした活動を通して私たちが提唱しているのが、「リハビリテーションと移動の分離」という考え方です。これまでは、「車いすなどの福祉機器に頼ると身体機能を低下させてしまう」という認識が一般的でした。しかし、WHILLをうまく活用すれば、むしろ歩行距離の伸長など望ましい効果につなげられるはずなのです。

 

増本:行きたいところまで安全に到達できるようになることで、アクティブな方向へ心境の変化が起こり、ますます活動的になっていく……というイメージですね。人間の体力には限界がありますが、快適な生活のためにWHILLを活用していただくことで、利用者のQOL(生活の質)を上げていければと思います。実際に、WHILLを使って外出することで身体機能が回復し、要介護度が軽くなったり、車いすそのものを卒業したりするケースも出てきていますから。

 

石原:さまざまな車いすユーザーの声を聞くうちに、「障害者」と「健常者」はくっきりと分けられるものではなく、グラデーションのようなものだと感じるようになりました。例えば、介護サービスを利用されていない方でも、自動車運転免許返納後の生活の足としてWHILLを使うというケースもあり得ると思います。あくまでも一つの乗り物として柔軟に捉え、活用していただきたいですね。

  

WHILL Model Cは、たった4ステップで3つに分解可能。車のトランクに乗せられるのはもちろん、

飛行機への持ち込みも可能となり、車いすユーザーの世界を大きく広げてくれる

 

増本:その一例として、2020年には羽田空港における自動運転パーソナルモビリティーとしてWHILLの運用が開始される見込みです。日本航空(JAL)・日本空港ビルデング との共同プロジェクトで、2019年には試験走行を行っています。長時間歩くと負担が大きい方に搭乗口までWHILLで移動してもらい、利用後は自動運転でスタート地点まで返却できるというものです。既存の交通手段から降りた後のわずかな距離、いわゆる「ラストワンマイル」をつなぐ、気軽で安全なインフラを目指しています。今後は公道での実用化なども視野に入れながら、移動に困る人がいない世界を実現できたらと思います。

   

石原:かつて目が悪いことは大きな障害でしたが、おしゃれで高性能なメガネが普及したことで、そうした考え方は様変わりしました。車いすもメガネのようになれると思っています。誰もが生きやすいフラットな世の中を作るため、これからもWHILLが貢献できることを模索していきたいと考えています。

 

「誰もが行きやすい世の中を作りたい」と話す石原さん(左)と増本部長

 

WHILL株式会社(ウィル)/ WHILL, Inc.

住所:〒230-0045 神奈川県横浜市鶴見区末広町1-1-40 横浜市産学共同研究センター実験棟F区画(日本本社)
TEL:0120-062-416
2012年5月設立。パーソナルモビリティーの生産・販売を中心に事業を展開している。WHILL Model Aにより「2015年度グッドデザイン賞」でグッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)を、WHILL Model Cにより「2017年度グッドデザイン賞」でグッドデザイン賞を受賞。

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