2018.09.10
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近江八幡市立総合医療センター/木下 明美さん

INTERVIEWS

▼目次

 

インタビュー紹介

\職場変革には職員の声に耳を傾けることが重要/

そこから職場改革のヒントが見つかる!

プロフィール

近江八幡市立総合医療センター

副院長・看護部長 木下明美(きのした あけみ)さん

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【業態】急性期総合病院

【設立】1941年11月

【本社所在地】滋賀県近江八幡市土田町1379

【病床数】407床

 
 

2-1.カンゴサウルス賞受賞について

勇気を出してワーク・ライフ・バランス推進に参加することを決意

---カンゴサウルス賞受賞までの経緯について教えてください

 

カンゴサウルス賞は、日本看護協会が主催する看護職員のワーク・ライフ・バランス推進ワークショップに3年間取り組み、看護職の働き続けられる環境作りに励んだ施設に贈られます。当院は2014年に参加し、2017年にカンゴサウルス賞をいただきました。かねてより看護協会からご案内はいただいていたものの、参加するには少しハードルが高いと感じていたのですが、ワーク・ライフ・バランス推進には家庭と仕事の両立が難しいという職員の声があったこと、また、看護職員の離職も課題と感じていたため、前看護部長の「参加してみよう」の一声で推進に参加することが決定しました。カンゴサウルス賞をいただいてから1年経った現在、当時よりは活動規模は縮小していますが、ワーク・ライフ・バランス推進の取り組みを継続して行っています。

職種問わず職場一丸となって取り組むことが大切

---ワーク・ライフ・バランス推進にはどのようにして取り組まれたのですか

 

まずは現状を把握するためにワーク・ライフ・バランスインデックス調査から課題抽出を行い、課題解決に向けて取り組みました。「看護職員として大切にされていると感じるか」「看護ケアに費やす時間が確保できているか」などの質問項目があったのですが、数値が低い回答がいくつかあり、さまざまな課題が見えてきました。

 

同時に、課題を解決するために、ワーク・ライフ・バランスのワーキンググループを1年間かけて立ち上げました。推進を行うにあたって、重要視していたことが2点あります。

(1)推進を看護部のみの取り組みでなく、院内全体の取り組みとすること。

(2)管理職のみでなく、スタッフも一緒に取り組みを行うこと。

 

職種問わず全職員から推進の参加者を公募したところ、院長や医師、医療技術部や検査技師の方から参加意思がありました。また、管理職のみでグループが構成されてしまうと、管理職目線での意見や考え方が多くなってしまうため、スタッフにも参加してもらいました。最初は、6人ほどの活動でしたが、次第に参加者が多くなり14人まで増加しました。

 

また、効率よく推進を進めていくためにワーキンググループを3つのグループに分けトライアングルを作りました。

・「ワークライフバランス推進委員会」…医師・看護師・コメディカル・事務が集まるグループ。

・「看護長会」…看護部の管理者が集まるグループ。

・「看護師ワークライフバランス委員会」…看護部の中心的年代である30~40代で構成されたグループ。

 

最後に、上記のトライアングル内で3つのテーマを掲げて取り組みを進めました。

(1)看護師の確保、離職防止 ~やめない、やめさせない!~

(2)育児と仕事の両立

(3)院内の様々な制度の周知

幅広い職種、年代、役職でワーキンググループを立ち上げたことで、それぞれの立場に即した意見や考え方が出てきます。各グループから出てきた意見や考え方をワーク・ライフ・バランス推進委員会で統合し、実際の活動に落とし込む方法で推進を行いました。

 

2-2.育児と仕事の両立

職場の中心的年代が満足と感じる職場環境づくり

---ワーク・ライフ・バランスを実現するための、ワーキンググループ内での取り組み内容を教えてください

 

子育て中の職員の割合が高いため、30~40代に向けての取り組みをいくつか行いました。

 

まずは一時保育所の立ち上げです。一時保育所とは台風などの自然災害で子どもたちの幼稚園や小学校が休みになってしまったときに、職員の子どもたちを受け入れる臨時の保育所です。和室の会議室を活用し、子どもたちが飽きないようにテレビなどの準備を行いました。看護副部長やワーク・ライフ・バランス推進委員会のメンバーが、2時間交替でシフトを組み、常時2名で子どもたちの対応をしました。職員たちは誰も保育の経験はなかったのですが、保育所を利用した保護者からは「預かってくれて助かった」、子どもたちからは「楽しかった」という声があり、親子ともに満足度の高い取り組みとなりました。


一時保育所

 

2017年には職員の子どもたちを対象とした院内探検ツアーを企画しました。手術室・病棟・お風呂場などの院内施設を見学したり、車椅子や血圧測定、心電図モニタの説明、正しい手洗いの方法を学んだりなど、さまざまなことを体験してもらいました。また、ご両親が働く姿を事前にビデオで撮影しておき、ツアー中で流したところ、とても好評でした。アンケートでも「お母さんってすごいところで働いているんだね」とか「お父さんがとても頑張っていた」、「将来は病院で働きたい」などの回答が返ってきました。親子の会話のきっかけになるだけでなく、絆を深める企画だったと感じています。

 


院内探検ツアー

  

さらには、育休中の職員が復帰しやすい環境を整備することにも取り組みました。最近の院内ニュースや院内の取り組み内容などを取り上げた「にこにこ通信」を休職中の職員の自宅に毎月郵送しています。長く職場を離れても職場の状況を把握しておくことで、復帰後、職場に溶け込みやすい状態を作ることが目的です。また、長期にわたって医療現場を離れてしまうと手技に不安を感じてしまう職員も多いため、自宅で技術面の学習ができるように、いつでも好きな時にeラーニングで自己学習ができる環境を整えています。

にこにこ通信

 

また、職員のキャリア開発にも力を入れており、院内留学を始めました。職員の人事希望のきっかけや、キャリアプラン形成のためになれば良いなという思いから、2016年より開始した取り組みで、年齢・経験問わず参加希望者は他の病棟を1日かけて見学できます。参加者から「新しい発見があった」「行ってよかった」という感想が多く好評でした。

 

---これらの取り組みの効果を教えてください

 

育休の早期復帰を希望する職員が増え、直接、看護部の管理職に悩み相談に来るスタッフが増えたので、まずは看護師長に相談をしてもらい、その次に看護部長、そして最後に看護部長という相談のフローを作りました。

 

これらの結果、職員の離職率を大幅に削減することができました。常勤の看護師の場合ですが、ワーク・ライフ・バランス推進を行う前の2014年は、離職率が10.3%だったところ、推進を始めた2015年には離職率が8.2%になり、昨年2017年には5.8%になりました。

 

ライフイベントを迎えても職員が働き続けることができる環境と、働きがいのある環境の両方の実現を目標に推進を行ってきた結果、ここまで常勤看護師の離職率を減少させることができたと考えています。

 

 

2-3.院内職員の働き方改革

院内の体制改革に取り組むことで、働きやすい職場を実現

病棟看護師の負担を軽減するために入退院支援室を作りたいという強い思いがあり、2017年に新たに立ち上がった患者総合支援課に入退院支援の機能も入れました。現在の患者総合支援課は入院支援、退院支援、地域連携、患者相談の4つの機能を持っています。

 

入退院支援室では患者様が入院される前に、入院準備の説明やクリニカルパスの説明、また手術前の問診などを受けていただきます。これまで患者様の入院手続きに1時間半かかっていたところ、15~20分まで短縮することができました。患者様からも「入院前に非常に丁寧に説明を受けられるため安心できる」といった声を多くいただいております。

 

また、多様な勤務体制を作ってほしいという要望が多かったため、それまで3交代勤務のみの勤務体制だったところに、2交代勤務と夜勤専従の働き方も導入しました。職員は希望に沿った勤務体制を選べるようにしています。2交代勤務は申し送りの時間もないこと、また、16時間患者様と付き添えるため、効率的に業務に取り組めることを期待しています。

 

これらの院内改革の結果、一般病棟の平均稼働率が昨年と比較して約4.5%増加したのですが、職員の超過勤務時間は年間で約1300時間もの削減に至りました。職員の声に耳を傾け、職員が働きやすい環境を整える改革を行ってきた結果だと感じています。

 

---今後の目標を教えてください

 

「人を大切にして笑顔で働き続けられる組織風土を醸成すること」が目標です。「人を大切にする」という思いを軸に職場改善の活動や対策を行えば、結果がついてきます。病院は、互いに助け合う精神が根付いている場所です。管理職のみならず職員全員で助け合い、支え合いながら長期にわたって就業できる環境づくりを整えていきたいと思っています。

  

  

定着 のポイント

Point.01 職場一丸となって取り組む
職種問わず「院内全体の取組み」として全体に発信、参加者を募ること

Point.02 現場の声に耳を傾ける
現場からの意見を吸い上げて、取り組み内容を決定・実行すること

Point.03 人を大切に
「人と人との助け合いの精神」の考えを持ち、職員全員で支え合うこと

 

  

(取材日:2018年8月3日)

メディカルサポネット編集部

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