2018.06.20
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医療法人明成会 介護老人保健施設 紀伊の里/山野 雅弘さん

INTERVIEWS

▼目次

 

1.インタビュー紹介

 

プロフィール

公益社団法人 全国老人保健施設協会

管理運営委員会 委員長

医療法人明成会 介護老人保健施設 紀伊の里

医学博士 兼 施設長

山野 雅弘(やまの まさひろ)さん


【業態】介護老人保健施設

【設立】1995年12月

【本社所在地】和歌山県和歌山市宇田森275-10

   

老人保健施設全体の課題は

看護職員と介護職員のチームワークである

管理者は創意工夫で、その風土づくりを

 

2-1.現状

多職種連携の強化が課題。組織の風土から「協働」を。

---老人保健施設の課題をお聞かせください

 

老人保健施設(老健施設)全体の課題は、看護職員と介護職員との連携やチームワークといった点です。老健施設は多職種協働の代表的な施設のため、施設によっては看護職員と介護職員が対立することがあります。私の勤め先(和歌山県・介護老人保健施設『紀伊の里』)にしても、2017年で開設22年目となりますが、かつて、そういったことが原因で退職した職員はおりました。当施設では「多職種平等」という方針を強調しております。「平等」としてありますが、介護職員の知識やスキルの習得度によっては、看護職員のほうが立場が上な場合があります。常に忙しい現場において、お互いの仕事を理解した上で、一緒に協働するための仕組みづくりを心がけております。具体的には、当施設の場合は夜勤3名体制ですが、必ず看護師を1名配置しています。また、一般的には看護職員がしない「オムツ交換」などの業務も、当施設では看護職員も行います。そのため、精神的な「協働」とか「平等」という感覚、風土が培われてきていると思います。

 

新入職員の教育には、役職者を配置。手厚い教育から即戦力へ。

---新卒で入職される方もいるとお聞きしました

 

もちろん、いろんなケースがありますが、実務実習の段階から「紀伊の里で働きたい」と志望される方が多いです。当施設は、和歌山県に2施設、和歌山市内では1施設しかない「強化型」の老健施設です。離職がないので、なかなか希望者全員を雇ってあげることができないのが残念ですが……。

当施設は、学生の実務実習や新入職員が入職する際は、日勤帯、夜勤帯どちらにも役職者を配置しています。また、学生や新入職員が夜勤の手順をマスターできるまでは、通常よりも人員をプラスにしています。このように職員が独り立ちできるまで手厚くサポートしているのも当施設の魅力であり、学生の志望が多い理由につながっていると思います。

 

老健施設は知識・スキルと合わせて、対人力・判断力を求められる職場。

---前職とギャップを感じられる方への対応はどうされてますか

 

施設経験のある方は、前職との業務のやり方や考え方の違いなどにギャップを感じるケースが多いです。そのため、まず面接の段階から、前職と異なる点を説明しています、面接は事務長が行いますが、同職種の方にも同席してもらい、実際の業務のやり方や流れ、施設のルールなどを生の声で説明しています。当施設の理念や、やり方に納得の上で入職していただくようにしていますね。

施設未経験の方の中でも、急性期病院に勤務されていた方で、ギャップを感じられる方は多いですね。注射や採血といった医療技術面ではなく、利用者さんとの関わり方や、判断力を必要とされる面で違いを感じるケースが多いです。急性期病院と老健施設の大きな違いは、医療提供ではなく生活支援が主となることです。生活支援ということもあり、利用者さんとの距離が近く、関わりも深くなります。そこで必要とされるのが、「対人力」です。こればかりはマンツーマンで指導しても、身につけることは難しいですね。また、急性期病院のように、常に医師がたくさんいるわけではないので、対人力と合わせて、判断力や知識、スキルが求められることが多い職場であります。

 

 

2-2.研修

協会や行政の研修会に参加することで職員のモチベーションアップに。

---職員の育成について、どのような取り組みをされていますか

 

全国老人保健施設協会(全老健)が主催する研修の他、看護協会や、行政が実施している研修には、ほとんど出席しています。全老健主宰の「全国大会」というのが、北は北海道、南は沖縄まで全国各地、各都道府県の持ち回りであります。2017年は夏に愛媛県で開催され、2018年は冬に埼玉県で開催されます。この「全国大会」は、全国から多くの老健施設の方が参加しています。さまざまな講演会や、厚生労働省の方からお話を聞いたり、職場での取り組みについて発表があったりと盛りだくさんの内容です。

当施設は、必ず10名以上で参加し、演題も5題以上は出すようにと心がけています。実際に参加すると、刺激を受け、個々のモチベーションもぐっと上がります。また、施設に帰って、他の職員に共有することで、相乗効果も見込めます。他施設の取り組みや事情、業界の状況を知ることも大事なんです。

 

和歌山市内唯一の在宅強化型老健施設

在宅復帰を目指し、住み慣れた地域、自宅での生活をサポートしている。

トップダウンの職場では職員の自立性が育たない

---職員の意識の高さは、さらなるスキルアップにもつながりそうですね

 

たしかに自発的に「研修行かせてください」とお願いされることは多いです。スキルアップに関して、当施設は原則、全部を勤務扱いにしていますし、遠い場所も近い場所も含めて、交通費も参加費も出します。最近だと「認知症ケア専門士」の資格を取りたいという方が3~4名おりました。こちらから強制するようなことはなく、自発的に行ってくれています。当施設の介護職員は全員が常勤で、介護福祉士免許の取得率は90%なんです。新卒から有資格で入職する方ばかりではなく、半分は「実務経験3年」から入職し、スキルアップしてきた方々です。それが今、結果として90%の取得率になっているわけです。

 

社外研修の積極的参加を

社外研修は、原則勤務扱いとして職員が参加しやすい環境を整える。

職員の自発的参加がスキルアップの鍵となる。

 

2-3.定着

職員主体の施設運営をすることで
看護職員、介護職員の離職ゼロに。
職員の提案には100%断らず、まずは取り組むことが大切 

看護職員は二年間、介護職員は三年間、退職者ゼロ。

---貴社は職員の定着率が高いとお聞きしました

 

施設の管理者から、職員を縛ってしまうと現場がどんどん疲弊してしまいます。むしろ、職員が主体となり、責任を持たせることで、新しい取り組みが生まれ、さまざまなことを自発的にやってくれるようになりました。私としては、挙がってきた提案に対しては、100%ダメとは言わないですね。まずは「やってみよう」と。もしやってみてダメだったら「修正すればいい」と伝えています。現場のことを机上のみで話し合っていても職員はやる気をなくします。考えてばかりでなく、実行するというのも大事です。手前味噌になりますが、当施設は職員が「やりがい感」は持っているのかなと思っています。その効果なのか、看護職員は二年間退職者ゼロ、介護職員も三年間退職者ゼロと離職防止にもつながっています。

 

看護・介護現場の3Kを覆したい。 「かっこよく、スマートに」

 ---将来的な取り組みについて、お聞かせください

 

看護・介護現場は「3K(きつい、汚い、危険)」と言われていますが、私はそれを払拭したいと考えています。具体的には、ICTを積極的に活用することで、看護・介護現場を「かっこよく、スマートに」したい。

当施設では、記録のICT化に向けて、通称「介護の電子カルテ」を導入したんです。年配者も含め、誰一人として脱落者はおらず、見事に記録が効率化されました。他にも「iPad mini」を導入し、バイタル、検温、血圧などの数値を、自動的にBluetoothでiPadに飛ばしています。転記する必要がなく、送受信を押すだけでサーバー上に記録されるから、とても便利です。これが推進されることにより、業務効率化つながり、利用者さんと関わる時間も増え、職員の残業時間を削減することができました。今現在(2017年10月現在)、当施設の看護職員、介護職員の残業は月3~4時間程度なんです。残業が発生するのは、イベントの出し物の練習をする時だけですね。

このように職場環境を改善することで、看護・介護現場におけるイメージを覆していきたいと考えています。

 

職員のモチベーションの高さが離職防止に

職員一人ひとりに責任を持たせることで、自発的な研修の参加者が増え、職員のスキルアップにつながる

  

経営・研修・定着 のポイント

Point.01 「経営」
看護職員と介護職員が協働するための仕組みをつくり、職場全体の風土改革を

Point.02 「研修」
他施設の取り組みや業界の動向を知ることで、スキルアップやモチベーションにつながる

Point.03 「定着」
机上で話し合うだけではなく、まずは「やってみよう」の精神で取り組むことが重要である

 

 

 

取材日:2017年10月24日

メディカルサポネット編集部

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